「八潮の地名から学ぶ会」事務局長を務め、「方言漢字サミット」開催にも尽力
「日本は多様な地域文化の集合体。『方言漢字』から地域文化の魅力や豊かさに触れ、先人の恩恵にあずかる幸運を実感してもらいたい」と笑顔を見せる。
このほど発刊された、日本製漢字である国字研究の第一人者、笹原宏之・早稲田大学教授の編著書『方言漢字事典』(四六判、292㌻)に、「埼」「墹(まま)」「屼(はけ)」などに関する文章や写真を寄稿した。本紙連載の「一字千金―『方言漢字』の世界」も隔月で執筆している。
地元・八潮市出身。小学生の頃、少年野球チームに所属。対戦相手のユニフォームに刻まれていた「垳(がけ)」の文字に強い印象を受けた。それが地元の方言漢字「垳」との出逢いだった。
中学生の頃、銀座で映画を鑑賞した後、まちを散策するという習慣が定着。徹底的に現地調査して漢字を調べ上げるという「現在の基礎が当時からあったのかもしれない」と振り返る。
大学卒業後、獨協大学の職員に。上司から贈られた学術誌「國語國字」に笹原さんの講演録を見つけ、「垳」と〝再会〟した。パソコンですぐに変換できるJIS(日本産業規格)漢字コードの「第二水準漢字」に選定されている唯一の理由が、八潮市に「垳」の地名があるからと知る。
しかし、2012年、八潮駅周辺の区画整理事業に伴い「垳」が存続の危機に陥った。消滅を回避すべく事務局として活動。署名活動や声明文の発表、市に要望書などを提出し、一時的に消滅を回避できた。だが、「今でも『垳』消滅の危機は免れていない。それは他の地名も同じ」と警鐘を鳴らしている。
そうした中、「垳」のような地域文化を象徴する漢字を「方言漢字」としてまちづくりに生かそうと17年に「方言漢字サミット」を開催。コロナ禍での休止はあったものの、年々参加者が増え、今回寄稿した『方言漢字事典』が作られるきっかけにもなった。
「全国で一つしかない地名『垳』と再び出会ったことで、八潮市民であることを誇りに思えるようになった。今後も歴史ある地名の意義を伝えたい」。 (佐藤 龍一)