<記者ノート>
「障害者の、障害者による、障害者のための事業」を――と、自身も障害を抱える、草加市氷川町の障害者の交流グループ「松ぼっくりの会」代表、松丸和弘さん(63)が、障害者による物づくりの会社立ち上げの準備を進めている。具体的には、オリジナルの木製箸箱などを20人規模で製作しようというもので、現在、事業所設立の場所探しや資金の調達をしている。「住み慣れた地域で、障害者が民間企業と連携して軽作業を行って自立し、自分らしい生活を」と松丸さんは、夢の実現に奮闘する。
松丸さんは、自身も他者の助けは必要ないものの、日常や社会生活に制限を受ける「精神障害者2級」に位置づけられている。
「障害者の自立」を強く意識するようになったのは、約13年前に入所した就労移行施設での体験だった。ここで、松丸さんは、施設の運営方法などを独自に学んだが、「身体障害者の就労率はよいが、知的・精神障害者の就労率は低く、定着しにくい」という、障害者の雇用のハードルが高い現実を改めて確認した。
2年前、交流グループ「松ぼっくりの会」を作り、障害者同士や健常者との交流を進める中で、自身の障害も治らないなら、やりがいを見つけて突き進めたいと「障害者の自立」と「SDGs(持続可能な開発目標)」を組み合わせた事業の立ち上げを模索してきた。
現在、練っているアイデアは木製品の加工。「木の端材を使い、“メニュー立てと一体化した箸箱”を製作し、レストランや喫茶店などで既存のプラスチック製の箸入れと取り換えてもらう。プラスチック製箸箱はこちらで引き取り、業者に販売して収入アップを図る」と松丸さん。
すでに、木の端材の提供会社や加工などの協力会社も見つかった。障害者らには、箸箱の組み立てを担当してもらう計画で現在、箸箱を試作している。箸箱以外にも、木製の携帯用箸とスプーン、中性洗剤入りの紙チューブのセット品の試作も進めている。また、その事業所での障害者の雇用時間は約2時間を見込んでいる。
松丸さんは、クラウド・ファインディング(インターネット利用の資金調達)や寄付、助成金などを活用したい考えで、事業所設立の場所を探している。
「将来は税金などを利用せず、独立採算を目指す。各企業や団体に手伝ってもらいながら、障害者自らが企画や営業、製作もできる自立した事業所を設立したい」と松丸さんは、来年度の上半期間までの設立を目指して奔走している。
障害者の自立には多くの課題が立ちふさがるが、障害者自身による“課題突破”に期待し、応援したいと思う。 (佐藤 龍一)