早稲田大学と越谷市の住宅メーカー「ポラス」(中内晃次郎社長)が産学連携による共同研究で「旧日光街道・越ヶ谷宿のまちづくり」について調査し、住民から聞いたまちの様子や暮らしのエピソードを小冊子「旧日光街道・越ヶ谷宿 まちづくりのよすが」(B5判、82㌻)としてまとめ、発行した。越ヶ谷宿に関する大学と民間企業の共同研究は初めて。明治後期から令和までの宿場町の家業の変遷では、時代の変化で業態を変えたり廃業したりした歴史がうかがえるなど興味深い内容となっている。
共同研究を行ったのは、早稲田大学のオープンイノベーション戦略研究機構「建築・まちづくり リサーチファクトリー」、「後藤春彦研室」とポラスの「コミュニケーション部」。同ファクトリーは郊外のまちづくりの研究を行っており、今回の調査はその一環。ポラスは越ヶ谷宿にある江戸時代末期に建てられた「蔵」を再生し、新しいまちづくりに関わっている。地域の財産として次世代につなぐことを目的に大学側から声をかけ、共同研究が実現。2020年11月から調査を始めた。
調査は「思い出調査」「口述史調査」と呼ばれるもので、地域に長年住んでいる人に学生たちが会って「まちの様子」、「暮らしに関するエピソード」などを聞いた。14人の住民が調査に協力。個人の記憶や知恵を聞いて、多様な心象風景を重ね合わせて「まちの記憶」として編集した。冊子の題名「よすが(縁)」とは「よりどころ」を意味する。
冊子は「風土」、「生業」、「暮らし」、「まちづくり」の4つのテーマに分け編集した。「風土」は元荒川での水遊びや釣り、田畑での遊びなど。「生業」は宿場町の家業の変遷や蔵に関することなど。「暮らし」は思い出の店や商店街に関することなど。「まちづくり」では、地域の人たちが実感している越谷の良いところやまちの課題などを語ってもらった。
「元荒川の寺橋(現在の宮前橋)のたもとに水練場(川を生かしたプール)があって、夏はみんな護岸から飛び込んでいた」「川沿いには、ウナギなど川魚料理店が3軒並んだ」などと思い出話を披露。さらに「江戸時代から平成初期まで味噌(みそ)屋として栄えた。その後、カラオケ教室に業態転換」などユニークな変遷も。将来のまちの姿については「かつての宿場町のにぎわいの復活」と「良好な住宅街」を望む声とに意見が分かれた。
調査に関わった同ファクトリーの岡村竹史・主任研究員(50)は「高齢者を優先して話を伺った。水害などの災害が少なく住みやすいと感じる方が多い。一方、街道に安心して歩ける歩道がないことが課題になっているようだ」と話した。
ポラスの茂木正嗣・マーケティング1課長(50)は「地元企業として、まちの様子や暮らしに関するエピソードを伺い、今後のまちづくりの参考になった」と話した。
冊子の内容は同ファクトリーホームページ(https://onl.la/FKzxyn7)で見ることができる。