越谷市の自動車部品メーカーが埼玉大学大学院(さいたま市)との共同研究で、車のアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故を防ぐ「アクセルブレーカー」というユニークな装置を開発した。アクセル本体の部品にマグネットを使った遮断機能を付けることで、必要以上に踏み込むと遮断機能が働いてアクセルを戻し加速しないようにする仕組み。年内に販売を開始する。両者は共同で特許を出願しているほか、国際特許も出願中で、世界各国の自動車メーカーにアピールする。
この会社は、同市東越谷の自動車部品メーカー「明和」(藤森正信代表取締役)。
2019年に独自に開発した運転支援装置「アクセル・ブレーキ踏み間違い軽減フットレスト『ペダル奉行』」(販売中)の有効性を確認するため、同大学の「オープンイノベーションセンター」に相談したところ、同大学大学院理工学研究科の楓和憲准教授(42)が興味を持ち、2020年4月から同社との共同研究がスタートした。
今回の「アクセルブレーカー」もこの共同研究の一環として開発された。昨年9月から共同研究がスタート。楓准教授のほか、同大学院理工学研究科1年の馬場居仲さん(23)、前田侑亮さん(23)、小石智也さん(23)の3人が加わった。
「アクセルブレーカー」は、アクセルペダルの支柱の先端部(ボディに近い部分)に近い部分に、強力な磁力を持つ「ネオジウム磁石」を付けた「バインダー」状のものを設置。通常は、磁石がついたまま普通のアクセルとして使用する。だが、アクセルをいっぱいに踏み込んで急加速をしようとすると、磁石同士が外れて加速しなくなる。磁石が外れた後は、強力なバネがついているため自然に元に戻るという仕組みだ。
アイデアは「明和」が考案したが、製品化には課題が山積していたため、磁石の強さから、バネの強度、磁石が足に当たらないようなペダルの角度決定など、楓准教授と大学院生たちが約1年かけて実験や試験走行などを重ね、「明和」がそれを受けて品質改良した。9月初めにようやく製品化のめどがついた。家庭で過電流を遮断する「ブレーカー」から名付けた。
楓准教授は「電子制御などをせず、マグネットが外れる時の音や衝撃でブレーキでないことをドライバーに知らせる画期的なシステム」と話す。
「明和」の藤森社長(63)は「社員が考えたシステムだが、専門知識を持つ大学と研究、実験を重ねることで製品化できた。中小企業と大学が力を出し合うことで新たな価値が生まれ、社会に貢献できたら」という。
今後は製品化に向けて最終チェックを行う。馬場さんは「企業と組むことで大学では学べない研究ができた」。前田さんは「刺激になった」。小石さんも「魅力ある共同研究」と意義を強調した。
「アクセルブレーカー」は、年内にトヨタ・プリウス、アクアなど3車種用を先行販売する。価格は3万円、取り付け工賃は5000円を予定。来年春までは「明和」で取り付けを行い、その後は全国のカーディーラーで販売する計画だ。
<問い合わせ>明和☎966・3551。
ペダル踏み間違い事故
国土交通省によれば、ペダルの踏み間違い事故は、年間約3800件発生(2019年)。同年4月、東京・池袋で高齢者運転の乗用車が暴走、母子がはねられ死亡した事故など、特に75歳以上の高齢者で重大事故につながる傾向が強い。
最新モデルには電子制御の踏み間違い防止装置などが装備されているが、高価なため普及が困難。このため安価で取り付けの簡単な「後付け」方式の装置の開発が期待されてきた。