草加市の皮革業者と、デザイナーとしても活躍するタレントの篠原ともえさん(43)が、エゾシカの革を使った着物「THE LEATHER SCRAP KIMONO(ザ・レザー・スクラップ・キモノ)」を共同で制作。この作品がこのほど、国際的な広告賞「第101回ニューヨークADC賞」で、「銀賞(ブランド・コミュニケーション部門)」と「銅賞(ファッションデザイン部門)」をダブル受賞した。先月、東京都台東区での「第103回東京レザーフェア」で展示され、注目を集めた。同市の皮革団体は地元草加でのお披露目も検討している。
受賞作品は、製革業者団体の一般社団法人「日本タンナーズ協会」(兵庫県姫路市)の天然皮革の魅力をPRするウェブサイト「革きゅん」の企画として、昨年6月から篠原さんらが取り組んできた。
篠原さんは、廃棄される革の端の部分を生かした「着物」をデザイン。波のような形の革を山々の風景に見立て、水墨画のようなグラデーションを創出した。
この着物の素材づくりを創業70年で、なめし・染色加工の高い技術を持つ、「伊藤産業」(草加市瀬崎)が依頼された。伊藤達雄社長(69)は、シカ革の手袋の素材を祖父の代から手がける同社の技術・経験から、シカ革を篠原さんに提案した。北海道北見市の業者から、高品質のエゾシカの革が手に入った。「シカ革は柔軟性があり、人肌にやさしい。着物の生地にするため0・45㍉の薄さにまで加工した」と伊藤社長。10年前、定年退職した染色職人を呼び戻し、現在、主流のプリントでは出せない黒から灰色の微妙なグラデーションを手作業で染色し、篠原さんと確認しながら約80 パーツの素材を作った。
縫製は「そうか革職人会」仲間の革服飾製品製造の「レファンズ」(川口市)の佐藤勝次社長(74)が担当。
「革の美しさを最大限に表現したい。稜線部分のパーツは縫わずに仕上げて」という篠原さんの注文に応えるため、専用ののりとアイロンの熱で仮止めする方法を応用。一枚一枚、張り重ねて温度を微妙に調整しながら接着した。佐藤さんは「のりの粘着度を工夫し、しわや模様がずれないようにするのが気を使った」と話す。熟練の仕立て職人が着物に仕上げた。
「ニューヨークADC賞」は1921年、広告美術団体「ADC(アート・ディレクターズ・クラブ)」によって設立された世界で最も歴史のある広告、デザインの国際賞。
伊藤社長は「草加の皮革業者の技術の高さを世界に証明できた。今回の挑戦が今後の技術の向上や継承につながる」と喜び、篠原さんも、「日本の皮革産業を支える職人の方々の技術のたまもの」と賛辞を贈っている。
作品紹介の動画や制作過程は、日本タンナーズ協会のウェブサイト「革きゅん」で見ることができる。