服飾で30年 熟練の実績 大野さん
全国から集まった熟練技能者が日本一を争う「第32回技能グランプリ」の婦人服製作部門で、越谷市袋山にあるスーツやコートなど高級既製服メーカー「(株)プラス・ワン」(土田邦夫社長)の従業員、大野亜紀子さん(50)が見事、銀賞を獲得した。同社はこれまでも、23歳以下で競われる「技能五輪全国大会」に若手社員を何人も出場させてきたが、その指導をしてきたのが大野さん。満を持して出場したエースの快挙に、土田社長は「大野さんはうちの宝物」と喜んでいる。
大野さんは中学生の頃から縫製が好きで、「服飾工場の人になる」という夢をかなえるため、県立越谷総合技術高校の服飾デザイン科に進学した。卒業後、縫製工場に就職したが、同工場が閉鎖されたため、プラス・ワンに入社した。
腕の良さから、同社ではメーカーからの注文服の試作品製作担当者を務めている。大会への挑戦は今回が初めて。「今までやったことがどれくらい通用するか」を知るために出場した。
大野さんが出場した「婦人服製作」部門の課題はジャケット製作。同じ素材で、パターン・デザイン画を見せられ、自分でパターンを起こして、10時間で完成させ、縫製の美しさや仕立ての正確さを競う。これまでこの競技に参加した人はベテランが多く、腕自慢の洋裁教室の先生が主に出場している。大野さんの年齢での出場は少なく、受賞する人もあまりいないという。
また、既製服と注文服では道具も仕立ての方法も全く違う。大野さんは、既製服と注文服の両方で1級を持っているが、既製服では30年以上の経験があるものの、今回出場した注文服製作での経験は浅く、かなりのハンデを背負うものとなった。だが、そうした中でも大野さんの技術は光っていた。「速さ、正確さ、対応力が素晴らしかった」と土田社長は話す。大野さんは、洋服の伸縮を縫いながら対応していく技術があった。また、既製服を30年近くやっていたためミシン作業を得意とし、布に糸で印をつける「切りびつけ」をしないでも速く縫える強みがあった。
今回、土田社長が大野さんを大会に送り出した理由の一つに、「出場して我々にもできることをアピールしよう」という願いがあった。服飾業界は、手作業、ものづくりという日本人の得意分野にも関わらず、若い人の減少や30年前から変わらない手間賃など、スポットライトを浴びることがあまりない。しかも「褒められたことがない。要求はされる。きれいにできてもスルーされる。うまくいかないと文句を言われる」と大野さんは話す。苦労の割に、待遇が良くない職種になってきているのが、土田社長の悩みでもあった。大野さんの受賞で「取引先にもアピールできた。これを機に若い人にも興味をもってもらいたい」と土田社長はうれしそうに話した。
銀賞を受賞した大野さんは、喜び以上に「金賞を取ると次は出られない。(銀賞なので)もう1回出られる」と、次回に向けて気を引き締めていた。