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草加/引きこもりの就労支援に

自由な勤務形態 働きやすい居場所作り 草加・氷川タクシー

 草加市を中心にタクシー事業を展開する氷川自動車交通(氷川タクシー)(運営・野島運輸。草加市氷川町。野嶋宏行社長)は、引きこもり支援を目的としてドライバーを採用している。再起の場所や生活の糧を提供する一方、タクシー業界のドライバー確保にもつなげようというものだ。引きこもりの数が全国的に増加し、一昨年3月には「県引きこもり支援に関する条例」が公布されるなど、自治体も対策に力を注ぐ中、ユニークな取り組みとして注目されている。

前島さん、採用担当の大角さん、飯塚さん、大坂さん(左から)

ドライバーを採用

 氷川自動車交通 氷川自動車交通では、1月末から引きこもり支援の採用キャンペーンを行っている。「人間関係で悩み、休職や退職を考えている、またはしたことがある」、あるいは「引きこもりである、あった」に該当する人が対象で、職務経験などは問わない。終了時期は未定で、内定有効期間は3年間と長く設定しており(状況により変更する場合あり)、すぐに働くことが出来なくても問題ない。
 問い合わせは同自動車☎︎923・2006。

「必要とする世界必ずある」

 引きこもり時代を経験し、現在、同社で働く前島大輔さん(40)、飯塚雄介さん(同)、大坂文信さん(46)の3人は「この会社と出会い、タクシードライバーとして働けて本当に良かった」と声をそろえる。
 前島さんは中学卒業後、家庭の事情でさまざまな仕事をしてきたが、失敗した時に周囲からの「中卒だから仕方ない」という声に傷付き、24歳の時に生活が不安定なこともありうつ病を発症。その後、職を転々としたが、常に「中卒だから」と自分を卑下し続けてきた。だが、7年前に同社に入社し人生が一変。現在はコンプレックス解消のため、通信制の高校や大学を卒業しようと、仕事と勉強の両立を図っている。

 飯塚さんは営業や経営コンサルタントの仕事に10年ほど従事していたが、椎間板ヘルニアを発症し休職。結局、退職し、半年ほど、療養生活を送った。その後、同社でタクシードライバーをする知り合いに勧められ、2年前に入社。現在はドライバーとして勤務する傍ら、同社のホームページやSNSの更新なども任されている。

 大坂さんは大学卒業後、飲食店に10年ほど勤めたが、サービス残業や食材の自腹購入などに嫌気が差し、退社して半年ほど引きこもっていた。31歳の時に一度タクシー会社を経験したが、深夜の乗客の吐しゃ物で嫌になり退職。その後は派遣で工場やトラックの運転手を経験するも、パワハラでうつ病を発症。43~44歳の時に傷病療養していたが、SNSのオフ会で知り合った人に同社を勧められ入社。経験が生かせたと喜んでいる。

 採用を担当する大角健泰・取締役兼旅客事業部長は7、8年前に就任以降、運転手不足に悩まされてきた。そこで同社が自由に勤務形態を選べる体制を整えている点を生かし、引きこもっている人たちの支援になればと採用を決めた。これまでに引きこもりの人5、6人を採用してきた。

 勤務形態は一般的な企業やタクシー会社と異なり、勤務日数・時間・形態の自由度が高いのが特徴。ノルマも設けておらず、ドライバー自身が希望シフトを提出する仕組みだ。連絡さえ入れれば、当日休みも可能。待遇や働きやすさにも考慮している。

 大角さんは「引きこもりやうつ病を発症し困っている人がいるが、その周囲の世界が全てではない。必ず必要としてくれる世界がある」と強調。「弊社を選択肢の一つとして生活が豊かになり、引きこもりやうつ病を発症した人たちの人生がよりよい方向に飛躍してもらえれば」と話している。