八潮 ワイ・エス・エム 九州観光列車にも製品
地域と世界をつなぐ活動を行う団体や個人を表彰する「埼玉グローバル賞」の表彰式がこのほど行われ、八潮市の照明器具・導光板製造会社「ワイ・エス・エム」(八島哲也社長、同市二丁目)が「世界への挑戦部門」で大賞を受賞した。2017年から外部デザイナーと共に一般消費者向けの自社ブランドを設立し、海外で国際デザイン賞を受賞。自社ブランドの販路を拡大してきた。八島社長は「卓越した日本のものづくりブランドを海外に発信し、今後もこだわりを持って製造していきたい」と喜んでいる。

板金技術基にブランド化
2月13日にさいたま市の県知事公館で開かれた表彰式で、大野元裕知事は「板金技術を生かして特注の照明や建築金物を設計・製造・販売し、小規模な企業でありながら、先進的なデザインとそれを可能にした技術が世界から高く評価されている」と講評した。
八島社長はやや緊張した面持ちで大野知事から賞状や記念品を受け取り、「海外では、企業ではなく商品自体で良し悪しが評価されるが、それだけに良いものを作れば零細企業にもチャンスがある」と強調し、「国際デザイン賞にも引き続き挑戦していく」と意欲を見せた。
同社は1992年、東京・墨田区で板金技術を使い、建築金物の設計、製作、販売を行う会社として設立。2010年、八潮市に移転した矢先に、先代社長である叔父が急逝した。大学卒業後、社員として働いていた八島社長は決断を迫られたが、自分が継がないと会社がなくなると事業継承を決意した。
だが、リーマンショックなどの影響で、先代社長が抱えた赤字は想像以上だった。さらに約半年後、東日本大震災が発生。自分ではどうすることもできないと正直に従業員や家族に打ち明けたところ、「踏ん張れるところまで全力でやろう」という予想外の答えが返ってきた。気を引き締め直し、4年をかけて自社を立て直した。

この頃、イベントで知り合ったデザイナーとの出会いが大きな転機となった。設計から完成まで一貫して手がける強みを生かし、出来上がった照明の商品化を機に、自社ブランド「Y・S・M PRODUCTS」を立ち上げた。次々と新製品を開発し、19年にはフランスで初出展した本型の照明「NIGHTBOOK」がパリのルイヴィトンミュージアムとスイスの家具メーカーVitraで販売がスタート。世界3大デザイン賞の一つ「iFデザインアワード」も受賞した。
その後も県の企業と共同開発を行った小川和紙と真ちゅうを用いた照明や、手元だけを照らす照明など、デザインに優れ、かつ機能的な照明を生み出し、海外での展示会出展や販路の拡大を続けている。
国内では、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」の照明なども手がけている。
「使う人の心を豊かにする光がコンセプト。商品を販売するより思いを伝えることを大切にしている」と八島社長。「海外展開したことで、売り上げや利益は突き抜けていないが、間違いなく今後の事業の中心になる。何より、世界中の人に喜んでもらえることがやりがいや生きがいにつながる」と喜んでいた。