草加西高で出張授業
18歳未満で親などの介護を行っているヤングケアラーの実態を学ぶ出張授業「自走式ヤングケアラーサポートクラス」が7月19日、県立草加西高校(市川啓二校長)で行われ、元ヤングケアラーで、現在はケアラー支援活動を行っている特定非営利活動法人「フォーケアラーズ」代表理事、井手大喜さん(38)の講演を全校生徒で聞いた。
この授業は、県教育委員会がヤングケアラーに対する生徒の理解を深めてもらうため、指定した県立高校50校で実施している。
井手さんは高校1年だった2002年3月、会社員だった50代の父親が脳梗塞で倒れた。もう一人、障害のある家族もおり、高校、大学、大卒後と8年間にわたり、母と分担して介護に明け暮れる毎日を送った。
井手さんは当初、「父が退院すれば、元の生活に戻れる」と思っていた。だが、父には重い後遺症が残り、常時介護が必要だった。学校には、ホームルームなど通常の授業以外は早退させてもらえるように伝えた。だが、友だちには、なぜボクシングの部活をやめたか、なぜ早く家に帰らなければならないか、言うことはできなかった。「家庭内のことをどう言えばいいのかわからなかった」という。
高校卒業後、大学に進学したが、そこではさらに孤立感を味わった。友だちはサークルに、バイトにと楽しい学生生活を送っているのに、自分は相変わらず家と学校の往復だけ。父には認知症も加わり、徘徊(はいかい)するように。夜は井手さんが介護し、父が家の外に出ないよう玄関で寝た。
就活が始まると、友だちは次々に内定をもらっていくが、介護のある自分には就職は無理と諦めた。許された時間でできる仕事を求め、国家資格を取ることにした。そんな生活が24歳の時まで続いた。
井手さんは「家族の介護はして当然、でもこれからどうなるんだろうと不安だった」と指摘する。だが、「ヤングケアラー」という言葉もなかった当時と違い、今は理解も少しずつ進んでいる。「公的機関だけでなく、自分たちのような支援団体もある。一人で抱え込まず、相談してほしい」と井手さんは締めくくった。
同校では9月、教職員向けに、ヤングケアラーなどの生徒に対する対応力を向上させるための研修会を実施する予定。