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草加/病と向き合い 世界準V

飛田宏子さん パーキンソン卓球選手権で

 昨年10月にフランスのメジエール・レ・メスで開催された「第5回パーキンソン世界卓球選手権大会」で、草加市瀬崎の飛田宏子さん(68)が「クラス3混合ダブルス」で準優勝に輝いた。脳の異常で体の動きに障害が現れるパーキンソン病の患者による世界大会。卓球を始めてわずか3年目、しかも言葉の通じないスペイン人男性と初めてペアを組んでの偉業に、喜びもひとしおだ。次回大会では「他の人たちの励みとなるよう優勝を目指して頑張りたい」と意欲を見せている。

パーキンソン病患者による世界卓球選手権・クラス3混合ダブルスで準優勝した飛田さん
パーキンソン病
脳の黒質と呼ばれる部分の神経細胞が減少し、ドパミンが不足することで発症する病気。手足のふるえ、筋肉のこわばり、歩行障害などの症状が現れる。根治療法はまだなく、症状の緩和や進行の抑制を目的に対処療法が行われる。難病指定。

次は優勝 他の人の励みに

 飛田さんが参加した「混合ダブルス」は、男性が女性側に申し込み、女性側が断らなければペアが成立する仕組み。同じ病を患うフェレーラ・セダノ・ガブリエル・ホセさん(42)から申し出を受けた飛田さんは、携帯電話の翻訳アプリで「私は足が出せず、うまく動けませんが、大丈夫ですか?」と尋ねたところ、「問題ない」との答えが返ってきた。

 大会には世界各国から男子116人、女子33人が参加。リーグ戦で5勝1敗の成績を収め、見事、準優勝に輝いた。
 「興奮し過ぎていて、当日のことはよく覚えていない」と笑い、「卓球を始めて約3年で、世界で準優勝できたなんて信じられない」と喜んだ。また、贈られたメダルについて「つぶれたボールを再利用して作られていて、環境にも配慮されている大会だった」と話した。

 飛田さんは東京都墨田区出身。大学時代に書道5段を取って師範の資格を得、卒業後は公立小学校の教師として順風満帆な日々を過ごしていた。しかし、44歳の頃、黒板に字をうまく書くことができなくなり、病院を受診したところ、パーキンソン病の疑いありと診断された。「まさかと信じられない気持ちだった」と話す。

 その後も投薬などの治療を受けながら教師生活を続けたが、症状は悪化。歩くことも難しくなり、61歳の時には副校長まで昇進していたものの、やむなく退職した。その後、脳に機械を埋める手術(DBS=脳深部刺激療法)を行った。外部コントローラーを使い、脳に埋め込んだ電極で電気刺激を与えて脳内伝達物質を放出させ、運動調整を行うもので、現在は機械と薬を併用している。

 卓球との出会いは2021年7月。それまでスポーツの経験はなかったが、パーキンソン病の人を集めて卓球をしていると聞き、教室を見学。指導する先生の厳しさに感銘を受け、医師の勧めもあって挑戦することにした。翌年から少しずつ試合に参加したが、2年後には教室への往復も困難になり、より近い教室に変更。持ち前の負けず嫌いな性格から、昨年3月、福岡で開催された「九州パーキンソン卓球大会」ではクラス3で優勝するなど、力を付けてきた。9月に草加市に転居して以降も教室や自宅で週5日、練習に励んでいる。

ラケットを手にする飛田さん (自宅で)


 準優勝を受けて、昨年12月に同市の山川百合子市長を表敬訪問。「発症時は家に引きこもり気味だったが、卓球を始めて明るくなった」と言い、「パーキンソン病についてもっと多くの人に知ってほしい。家に閉じこもっている人の励みになるよう、今後も卓球を頑張り、次は優勝を目指したい」と決意を伝えた。