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笑い届けに被災地行脚・高橋敏文さん<震災10年>F

2021.3.22 (越谷市)
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 会場がどっと沸いた。拍手と笑い声。「あっ、受け入れてもらえた」――胸が熱くなった。

 3・11の翌日、越谷市平方の落語家、五十八亭(ルビ・いそはちてい)ふすま丸こと、高橋敏文さん(70)は宮城県石巻市へ向かった。炊き出しなどを手伝い、被災者の前で『芝浜』を演じてみた。「不謹慎かな」と思ったが、集会所を包む笑いの渦が、懸念を吹き飛ばした。以来、10年間欠かさず、石巻はじめ被災各地に笑いを届けている。

 元製粉会社営業マン。落語が大好きで、58歳の時、東京都内の「落語教室」で3年間、三遊亭円左衛門さんの指導を受けた。足の障害のため正座できず、立ったままの「スタンディング落語」というユニークなスタイルを貫く。遅咲きながら古典やオリジナル落語が得意だ。

 被災者の屈託のない笑い声に、「確かな手応えを感じた」2011年4月以降、自分で車を運転して岩手と宮城の被災地を訪ね、仮設住宅や集会所で「寄席」を開いてきた。

 「初めて石巻に行った時は車が屋根に乗っている光景に言葉を失った」

 訪問を重ねるうちに、いつしか、漁港で漁師に交じり、わかめの分類作業」や「ほたての稚貝のセッティング」をしていた。作業が終われば、漁師たちと、一杯やるほどに受け入れてもらえた。

 特に石巻市十三浜の漁師、阿部滋さん(71)、こう子さん(69)夫妻とは、年齢も近く、気の置けない“仲間”になった。阿部さんは自宅を津波で失ったが、家族7人は全員無事。昨年、石巻市内に自宅を新築し、敷地内に「ゲストハウス」も建てた。

 高橋さんは。コロナ禍で昨年から訪問回数は減らしたが、今では妻、菊江さん(68)(元特別支援学校教諭)と一緒に石巻に通い、阿部さんのゲストハウスに泊まっている。

 高橋さんには“相棒”がいる。越谷市花田の元警視庁刑事、成田光義さん(75)。「うどん作り」が趣味で、被災地でうどんを振る舞う。材料から燃料まで全て自前。2人は意気投合し、「落語」で笑った後、「うどん」を楽しむというボランティアを続ける。

 「趣味が生かせてよかった。多くの方と知り合えて見識が広がった」と成田さん。「人との出会いや関わりを大切にしたい。それが生きる希望になることを強く感じている」高橋さんの笑いの旅に、10年の区切りはない。
  (安部 匡一)
        (おわり)
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