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「認知症」と同じ支援策を・「共に生きるナノ」乗り出す

2012.8.6 (三郷市)
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 高次脳機能障害の問題を考え、障害を持つ本人と家族が地域で豊かな生活が送れるための環境づくりに取り組んでいるのが、三郷市を拠点に活動する「地域で共に生きるナノ」(谷口眞知子代表)。10年前から活動している「ナノ」にとっては、一般的にまだ「高次脳機能障害」についての理解度の低さにジレンマを感じている。障害者福祉、高齢者福祉両面での行政支援もまだはじまったばかり。「ナノ」では、今月から医師や理学療法士、療法士など医療関係者と会議施設職員による「高次脳機能障害事例検討会」を開催するなど、新しい活動も模索しはじめている。
 高次脳機能障害は、病気や交通事故などの脳損傷によって起こされる記憶能力、思考能力などの認知機能の障害で、認知症と共に器質性精神障害に分類される。記憶障害、注意障害(視聴覚的に不必要な音や刺激で疲れてしまう、必要なものが探せないなど)、遂行機能障害(一見簡単に見える片付けや仕事ができない、指示されないと行動できないなど)、社会的行動障害(性格の変化や感情のコントロール、意欲の減退、依存的行動など事故前と人が変わったようになるなど)などの認知障害など、脳の損傷部位によって特徴が出る。見た目ではわかりにくく、自覚症状も薄いため隠れた障害ともいわれる。
 「地域で共に生きるナノ」は、16年前、現在39歳の長男が水難事故で低酸素脳症となったことで、谷口さん(60)(三郷市戸ヶ崎在住)が2001年6月に、同じ悩みを持つ家族とともに自宅を事務所に発足した団体で、現在、三郷市はじめ、越谷、八潮市など在住の当事者会員16人、賛助会員は186人。谷口さんは「突然の出来事で、当時は、身近な地域で相談できる場や医療機関などがなかった。リハビリのための病院の受け入れ先を探したり、支援を受けるためにどのような制度があるのか調べたり、手探りの状態でした。高次の脳機能障害はだれにでも起こりうること。私は、仲間がいて地域の人に支えられてきたので、この地域で悩みを持つ家族らが相談できる場づくりや関係者に理解を深めてもらう活動ができればと始めた」という。ナノは、ナノテクノロジー(10億分の1の単位)で小さな力でも集まればお互い助け合っていける社会が作れる、という思いで立ち上げた。
 昨年からは、障害者とその家族や地域の人との交流、高次脳機能障害についての情報発信の場として、喫茶店「MILC」(戸ヶ崎2の374)もオープンした。2009年10月からは埼玉県から委託の「高次脳機能障害・ピア(仲間)カウンセリング事業」も手がけ、埼玉県東部地域の7保健所管内で、それぞれ年2回程度、地域相談会を開催するとともに、週2回(火・金曜日)専用電話で電話相談も受け付けている。
 「ナノ」事務局長の丹直利さん(55)は「高齢者の認知症に対して、高次脳機能障害は別物と理解されている。高次脳機能障害は、認知症と類似した点が多く、まずは同じ枠組みで支援策を考えてほしい。高次脳機能障害者は、全国で推定30万人、埼玉県では1万5000人といわれている。三郷市だけでも推定200人はいると見られるが実態がほとんど把握されていない。行政には実態把握の努力と具体的な支援策を検討してもらいたい」と訴える。脳卒中による高次脳機能障害者の場合、40歳以上であれば基本的に介護保険が優先的に適用されるものの、併用して利用できる障害者自立支援法によるサービスにつながっていない実態もあるという。

 「ナノ」では、三郷市が県の助成で今年3月から実施している、「徘徊高齢者等SOSネットワーク事業」に高次脳機能障害者も対象とすることを要望。24時間365日、市が民間委託した事務局が情報発信・収集を行うもの。このほど、特に年齢制限を設けず、若年性認知症や高次脳機能障害で徘徊行動が見られる人も対象となり、「ナノ」も協力事業所に登録した。ただ、同事業の対登録者は現在2人のみ。協力事業所は18か所。「個人情報の懸念もあり、登録者は少ない。協力事業所はコンビニ、ファミリーレストランなど拡大していくつもりだが、対象者へのPRと理解を深めていきたい」(市ふくし総合相談室)という。しかし、三郷市以外の近隣市町では、こうした制度がなかったり、対象外となっていることも多く、「自治体の理解度には、まだばらつつきがある」(谷口さん)という。
 こうした中、三郷市では、昨年8月の改正障害者基本法を受けて高次脳機能障害の位置づけを、今年度から市の障害者福祉計画にも盛り込んだ。さらに10月から高次脳機能障害を含めた障害者支援のあり方を検討する、「地域支援会議」(仮称)を県リハビリテーションセンター、草加保健所、市内病院の医療相談室など10人程度のメンバーで発足する。
 三郷市障がい福祉課の本田藤男課長は「支援を求めている人は、相談に来るので実態が把握しやすいが、高次脳機能障害と認識していない場合や知られたくないなど表に出てこない人は実態はつかみづらい。どれくらいの人が潜在的にいるのかわからず、制度化も難しいのが現状。10月からの地域支援会議では支援する側からの対応について、検討していきたい。高次脳機能障害についても、多くの人に理解してもらえるよう周知を図りたい」という。
 当事者本人や家族などが「高次脳機能障害」と気づかないケースや周りに知られたくないなどの事情もあり、一般的な認知度は遅れている側面もある。だれもが、高次脳機能障害になる可能性を持っている。身近な存在であることを多くの人が知っておくことで、理解も深まるのではないか。
 (金子 貞雄)
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