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区画整理で地名変更の危機・「垳」地区、住民が反対署名

2012.6.4 (八潮市)
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 「垳」という漢字を知っているだろうか。日本で唯一、八潮市内の地名で使われている。「がけ」と読む。「垳」がパソコンなどですぐに変換できるJIS第二水準に指定されている唯一の理由は、八潮市に大字「垳」の地名があるからだという。その「八潮市大字垳」の地名が、八潮駅周辺の南部区画整理の一環で7割が改名の危機に瀕している。島根秀行町会長は「400年前の文献にある地名。幕をあえて閉じるのは惜しい」と訴えている。

 「垳」地区は八潮駅から南西に徒歩10分ほどに位置し、面積5fに約1500人が住んでいる。昨年9月に発足された南部区画整理事業の町名策定委員会は、市民投票を交えた上で、垳地区の7割を含む西地区を「青葉」とすることに決定した。多田重美市長の答申を経て議会の承認を得れば確定する。
 「垳」の地名を守ろうと5月13日、垳ふれあい会館(垳町会公民館)で「垳を知る緊急集会」(垳町会、「垳」を守る会=橘ノ圓会長=主催)が開催され、70人が参加した。早稲田大学の笹原宏之教授、大東文化大学の宮瀧交二准教授、獨協大学の秋本弘章教授がそれぞれ「垳の意味と地名としての意義」、「埼玉の地名」、「都市化と地名―垳問題を地理学の観点から考える−」を講演した。
 「国字の位相と展開」(三省堂刊)、「國語國字」(國語問題協議會刊)の中で、日本で唯一使われている国字(日本で作られた漢字)として著している笹原教授は「“土”が流れて“行”(く)と書く“垳”は日本で、世界でここだけしかないもの」と、貴重性をアピール。さらに「地名はタイムカプセルのように隠れた過去をつかみ取ることができる固有名詞で、その命を奪い住民を分断する危惧がある」とした。
 会に一般で参加していた(財)日本地図センター客員研究員の今尾恵介さん(52)は「区画整理によって地に足のつかない地名に合理的に整理されてきた。集落があった場所の基本的歴史的地名を残すことが大事」だと述べた。また、池谷正さん(62)(大瀬在住)は「時代の流れはあるが水害の地域に住む先人達がコツコツと立ち向かってきたもの。歴史ある地名を大事にしてほしい」と発言した。


 守る会は、「垳という地名が先人達の手によって受け継がれてきたかけがえのない文化遺産」「土地に対する愛着や誇りといったものまでを白紙にしてしまう」「次の世代に命「垳(がけ)」で継承していく」とした声明文を読み上げ、集会参加者の合意を確認した。事務局の昼間良次さん(38)は「今後は反対署名を集め、南部地区全体に展開していき、署名・声明文・笹原教授、宮瀧准教授、秋本教授の推薦文を市議会に提出し再考を促したい」という。
 同市の南部地区区画整理事業は3区に別れており、議会承認が得られれば西地区が「青葉」、中央地区が「美瀬(みらい)」、東地区が「若葉」になる。策定委員は土地の地権者選出6人、町会・自治会選出2人、一般公募2人、学識者1人で構成。新町名は一般市民や地区内の学生から公募し118案が寄せられた。委員会で各地区7案にしぼり、最終的に地権者や市民へのアンケートにより2月に決定した。「青葉」は道路の“青葉通り”から、「美瀬」はむかし美しい浅瀬があったことから、「若葉」は伸びゆく町をイメージした名前だという。
 八潮市都市デザイン部市街地整備課の岡田亨副主幹、武田哲雄主査によると、@西地区には「垳」のほか「大曽根」「大原」「古新田」など計6つの大字があり、その中のひとつの大字を取ることは難しいA過去行われた八潮第一、第二、稲荷・井草地区の区画整理でもひとつの大字名をとることはできず、それぞれ「中央」「八潮」「緑町」に変更されたB公募の際に「垳」案がなかったC区画整理地外に「垳」が残るため西地区を「垳」とした場合混乱を期す―。などから「難しいのでは」としている。
 武田主査は、「すでに区画整理で変更になった大字名も木公園や学校などに残存している。そのような形で残せれば」という。南部区画整理事業は西地区・東地区が2020年、中央地区が2014年に終了する予定だ。地名の重要性を訴える住民に対し、今後の行政の対応が注目される。
 (新井 真由美)
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