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無料予防接種できない・1年間放置状態の市に批判の声

2014.5.12(吉川市)
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 吉川市内唯一の産院で、これまで無料接種できたBCGや日本脳炎などの予防接種が、昨年4月から受診者が一時立て替えなければならない事態になっている問題で、1年経った今も改善されず不便が続いている。このため、地元の母親たちでつくる「吉川市民の健康・子供達の健康を守る会」(内水龍子会長)は昨年6月に、今まで通り公費予防接種と公費助成の子宮がん検診などを受けられるようにと、戸張胤茂市長に要望書を提出。8月には市議会に請願書と戸張市長あての署名を提出した。請願は受理されたものの、9月議会で不採択になった。運営を巡る対立で、産院の院長が地元の吉川松伏医師会を除名されたため、発生した。市民からは「予防接種の費用は高額で経済的な負担が大変。また、赤ちゃんを連れた母親が予防接種を受けるのに保健センターと産院を往復するのも大きな負担だ」と母親らは訴えている。吉川市では「(予防接種などの)委託先は吉川松伏医師会なので、(同医師会以外の)個別契約には応じられない」とし、これらの市の対応に市民からの批判も相次いでいる。
 受診者が一時立て替えなければならなくなったのは、同市平沼の大久保クリニック(大久保典義院長)。同クリニックは同市内唯一の産院で、1か月に約60人の出産があり、そこで生まれた子どもを中心に2013年3月までは日本脳炎やポリオなど月300件の予防接種を実施していた。
 大久保院長と別の病院の医師1人は2012年6月、所属していた吉川松伏医師会(平井真実会長)の臨時総会で同医師会の下部組織として、「吉川市医師会」を設立することを提案したが、反対多数で否決。しかし、大久保院長は医師3人で「吉川市医師会」を設立した。これを受けて、吉川松伏医師会では、運営を批判して新たな医師会を設立したとして、9月の臨時総会で除名された。大久保院長らは処分を不服として、地位確認を求める訴訟を2012年11月に東京地裁に起こし、現在も係争中だ。同裁判は6月18日に判決が出る予定だ。
 吉川市の予防接種は業務を吉川松伏医師会に委託しており、年間の委託料は約1億5000万円。除名された同クリニックは昨年度から市指定医療機関から除外、市民に配布した「吉川市保健カレンダー」にも掲載しなかった。市は同クリニックで接種を希望する市民に対し、本来は主に里帰りなどが理由で県外の施設で接種した場合に認められる立て替え制度「区域外接種」の利用を薦めている。
 同制度は接種前に同市保健センターで申請後、いったん病院で全額を自己負担。その後、さらに保健センターに予診票の写しなどを提出し、受診者の口座に払い戻してもらう制度。実際に振り込まれるまでに2か月かかるという。同市健康福祉部によると、予防接種の費用は医療機関やワクチンにより異なるが、1回あたり1万円から2万円ほどかかるという。
 同市では、今年3月から、負担を少しでも減らそうと、保健センターへの申請を最初の1回だけにし、費用の申請書は同クリニックが一時保管し、市職員が週1回取りに行くことにした。これにより接種した母親は、接種後は保険センターでの申請は不要になった。なお、昨年4月から今年2月までの「区域外接種」の受診者は171人521件と多く、その請求額は756万円にものぼる。
 予防接種は新生児から1歳までの間だけでも、4種混合や麻疹風疹混合、小児用肺炎球菌など、のべ10回以上もあり、すべて立て替えとなると費用は膨らむ。
 大久保院長(77)は「がん検診など検診事業は吉川は医療機関での個別検診だけだが、松伏は施設を使っての集団検診が中心で、やり方が違うため、事業単価が異なる。不公平なため、下部組織として吉川市医師会の設立を提案した。予防接種は現在のやり方では、市民の負担は大きく問題。市と個別契約して、(市民が無料で接種できる)指定医療機関に戻してもらいたい」と訴える。
 これに対し、同市の鈴木昇・健康福祉部長は「予防接種の吉川松伏医師会への委託は長年の慣例。大久保クリニックとの個別契約は、医師会との信頼関係を損なうばかりか、健診などの保健事業にとどまらず、公立小中学校校医など、ほかの事業にも影響が出る可能性があり、そのリスクは避けなければならない。早期に和解し(医師会に)復帰してほしい」と話している。
 戸張市長に要望書を提出した、吉川市民の健康・子供達の健康を守る会会長の内水龍子さん(72)は「大久保クリニックと吉川市が個別契約した場合に行政はどれだけの不利益を被るのでしょうか。市の慣例により吉川松伏医師会の会員のみ契約するという思慮のない通り一編の答えは市民は求めていない。それが若い母親を不安に突き落としているし無責任。市は臨機応変に対応してほしい」と訴えている。内水さんらは、市長あての署名については、現在も続けている。いずれにしても、解決へのめどは立たない状況で市のアクションが期待される。  医師会内の対立が原因で、市民に「つけ」を回した形になった今回の顛末。多くの市民が困っている現状が明らかなだけに、市は速やかな対応が望まれる。市は「医師会との契約は、法律や条例で定められたものではない。慣例によるもので、ほかの医療機関との個別契約も法律上は何の問題もない」としているにも関わらず、医師会への「リスク」にこだわり続けている。「子育て支援」は吉川市政の重要な柱。市は医師会や除名の医療機関に問題打開の話し合いもせず、1年以上もこの問題を放置してきた責任は重い。子育て支援の基盤は市内の産科・小児科との連携が不可欠で、個別契約などで、市民の利益を守るべきだろう。
    (安部 匡一)

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